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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)1301号 判決 1977年1月21日

控訴人 金尚淑

被控訴人 株式会社菊利 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

原判決を取消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人株式会社菊利(以下、被控訴会社という)は別紙第一目録記載の建物(以下、本件第一建物という)を、被控訴人辻は別紙第二目録記載の建物(以下、本件第二建物という)をそれぞれ所有している。

2  然るに、右各建物につき、控訴人に対し、昭和三〇年六月一八日譲渡を原因として、大阪法務局天王寺出張所同月二三日受付をもつて、本件第一建物につき同出張所昭和二八年七月一六日受付第一一七二五号同月一〇日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記移転の附記登記、本件第二建物につき同出張所同月一六日受付第一一七二四号同月一〇日代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記移転の附記登記がある。

3  よつて、被控訴人らは控訴人に対し右各仮登記の抹消登記手続の履行を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  訴外東亜金属株式会社(代表取締役覚前勝己、以下東亜金属という)が被控訴人らを連帯債務者ないし保証人とし、担保を差入れて訴外株式会社近畿相互銀行(以下、訴外銀行という)から金三二九万五、〇〇〇円を借受けていたところ、その増担保として、昭和二八年七月一〇日、被控訴会社は本件第一建物につき、被控訴人辻は本件第二建物につき、訴外第一工業株式会社(代表取締役覚前勝己、以下第一工業という)はその所有の土地、建物につきそれぞれ増抵当権の設定、代物弁済の予約をし(以下、本件担保権という)、これを原因とする増抵当権設定登記、所有権移転請求権保全仮登記(前記一の2記載のもの、以下本件仮登記という)を経由した。

2  昭和三〇年五月頃右被担保債務は約七〇万円に減少していたところ、控訴人は、訴外銀行から本件担保権を譲り受け新たに東亜金属に対し融資することとし、昭和三〇年六月一八日訴外銀行に対し金七〇万円を支払つて訴外銀行の東亜金属に対する右残存債権七〇万円と本件担保権を譲り受け、被控訴人ら両名、東亜金属、第一工業のほか覚前勝己を連帯債務者として金八〇万円を貸付けたところ、右被控訴人らは、以上合計金一五〇万円とこれに対する月一割の割合による利息二か月分計金三〇万円、債務返済時に本件融資交渉および銀行交渉にあつた仲介人が要求した謝礼金三〇万円、以上総計金二一〇万円を、同年七月末日限り控訴人に返済することを約定し、被控訴人らと第一工業はその担保として本件担保権に関する登記を流用することに合意した。

3  ところが、被控訴人らが何らの弁済をしないので、昭和三四年五月末日現在、右債権額は元金二一〇万円とこれに対する昭和三〇年八月一日から昭和三四年五月三一日まで利息制限法所定制限利率範囲内日歩八銭二厘一毛の割合による遅延損害金二四一万五、〇〇〇円、合計金四五一万五、〇〇〇円に達した。

4  控訴人は、昭和三四年五月末右債権のうち遅延損害金二三〇万円を第一工業の土地、建物に対する担保権と共に訴外稲森繁蔵に譲渡した。

しかし本件担保権のうち抵当権については前記各物件が共同担保として設定されていたため、担保未分離のまま結果的には訴外稲森繁蔵に譲渡されたこととなり、同年六月三日控訴人は稲森に対し本件第一、二建物についても増抵当権設定登記の移転登記をしたので、右二三〇万円を除くその余の債権の担保権は、本件仮登記による担保権のみとなつた。

四  抗弁に対する被控訴人らの認否

抗弁1の事実中、訴外銀行の東亜金属らに対する債権金額三二九万五、〇〇〇円を担保するため、被控訴人らが控訴人主張の日本件第一、二建物につき本件担保権を設定し、その旨の登記をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。被控訴人らは物上保証人である。

同2の事実中、控訴人が昭和三〇年六月一八日訴外銀行に金七〇万円を支払つて控訴人主張のとおり残存債権と本件担保権を譲り受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同3の事実は争う。

同4の事実中、控訴人主張の日控訴人が稲森に対して本件第一、二建物についての増抵当権設定登記の移転登記をしたことは認める。

五  再抗弁

1  訴外銀行は、昭和二六年一〇月一五日東亜金属、第一工業を債務者とし、覚前勝己、谷川博一、林健一、木原健次、伊東美三を連帯保証人として、無尽掛金総額四四二万一、三二〇円の給付をなし、その弁済方法は、同年一一月から昭和二九年九月まで一か月金八万五、〇〇〇円、同年一〇月から昭和三〇年七月まで一か月金二万七、五〇〇円、同年八月から同年一一月まで一か月金一万円、同年一二月と昭和三一年一月は各金二、五〇〇円を毎月一〇日限り支払うと約定し、その担保として、第一工業、覚前勝己は各自所有の土地、建物につき、東亜金属はその所有の土地につきそれぞれ抵当権を設定した。

その後、昭和二八年七月一〇日訴外銀行が右債権残額三二九万五、〇〇〇円につき覚前勝己に増担保を要求したことから、同日被控訴人ら両名および第一工業は、右残存債権を担保するため上記のとおり本件担保権を設定した。

したがつて、本件担保権の被担保債権の最終弁済期は昭和三一年一月一〇日であるから、それから一〇年を経過したことにより右債権は消滅した。しかして、物上保証人である被控訴人らは右債権の消滅時効を援用する。

六  再々抗弁

1  被控訴人らが控訴人を相手方として提起した本件第一、二建物についての所有権移転登記の抹消登記請求訴訟(大阪地方裁判所昭和三八年(ワ)第三六八七号事件)において、控訴人は右債務の不履行を原因とする和解調書に基づく所有権取得を主張して争つている以上、右債権の消滅時効は中断している。

2  被控訴人らは、大阪地方裁判所昭和三五年(レ)第二三八号請求異議控訴事件において、昭和三四年七月中控訴人に対し金二三〇万円を弁済したことにより元金二一〇万円は消滅したと主張するところ、当時の債権額は金四五〇万円に達していたから一部弁済であり、被控訴人らの右主張は結局一部弁済の主張であり、従つて債務全部の承認である。右事件は昭和三八年二月五日判決の言渡となつているから右承認により時効は中断している。

七  再々抗弁に対する被控訴人らの主張

再々抗弁1につき、控訴人主張の事件においては本件仮登記は訴訟物になつていなかつたので、所有権移転登記の抹消登記義務を争つていたということは、時効中断の事由にあたらない。

同2につき、仮定抗弁を捉えてその主張を歪曲した不当な主張である。和解が有効であるとしても和解に基づく債務は弁済しているというに過ぎない。

第三証拠<省略>

理由

被控訴人ら主張の請求原因事実、昭和二八年七月一〇日訴外銀行の東亜金属に対する債権金額三二九万五、〇〇〇円を担保するため、被控訴会社が本件第一建物につき、被控訴人辻が本件第二建物につき増抵当権の設定、代物弁済の予約をし、その旨の登記を経由したこと、控訴人が昭和三〇年六月一八日訴外銀行に金七〇万円を支払つて右残存債権金額七〇万円と本件担保権を譲り受けたことは、当事者間に争いがない。

ところで、被控訴人ら主張の再抗弁1の事実は控訴人において明らかに争わないから自白したものとみなすべく、右事実によれば、本件担保権の被担保債権の最終弁済期は昭和三一年一月一〇日であることが是認でき(かりに控訴人主張の抗弁2の事実が認められるとすればその弁済期は昭和三〇年七月末日となる。)控訴人主張の時効中断事由が認められない限り、いずれにせよ遅くとも右弁済期より一〇年を経過したことにより右債権はすべて時効により既に消滅しているといわねばならない。

そこで、控訴人主張の時効中断事由について判断するに、成立に争いのない甲第六ないし第八号証によれば、被控訴人が控訴人を相手方とする本件第一、二建物につき大阪法務局天王寺出張所昭和三〇年九月九日受付同年六月二三日和解を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟(当庁昭和三九年(ネ)第三四九号事件)において、控訴人は右和解が有効に成立した旨主張し被控訴人らの主張を争つたが、敗訴し、その敗訴判決は昭和四三年四月六日確定したことが認められ、控訴人の右主張は、上記被担保債権の請求とは到底同一視することを得ず、時効中断の事由となすことができない。また、成立に争いのない甲第三ないし第五号証によると、被控訴人らが控訴人を相手方とする請求異議訴訟(大阪地方裁判所昭和三五年(レ)第二三八号事件)において、控訴人は、右当事者間の吹田簡易裁判所昭和三〇年(イ)第一八号貸金請求和解事件につき成立した和解は有効であると主張し、これに対し、被控訴人らは右和解の成立を争い、仮りに右和解が有効であるとしても第一工業が昭和三四年七月中控訴人に対し金二三〇万円を弁済したから右和解に基づく債権は消滅したと抗争した結果、昭和三八年二月二五日控訴人敗訴の判決が言渡され、該判決は上告の提起なく確定したことが認められるが、右事実をもつて本件担保権の被担保債務を承認したとは認めることはできず、他に右債務の承認の事実を認めるに足る証拠はない。

しかるところ、いわゆる仮登記担保権にも民法第三九六条は類推適用され、消滅に関する付従性が存し、被担保債権の消滅によつて、消滅すると解すべきであるから、右認定のとおり本件担保権の被担保債権が時効により消滅したことにより、本件第一、二建物についての代物弁済予約の完結権が消滅したといわねばならない。

してみれば、控訴人は被控訴人らに対し本件仮登記の抹消登記手続を履行すべき義務がある。

よつて、被控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由があり、これを認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 乾達彦 下郡山信夫 鐘尾彰文)

(別紙)

第一目録

大阪市天王寺区上汐町四丁目四二番地

家屋番号同町一一五番

木造瓦葺二階建店舗

床面積一階五八・四一平方米(一七坪六七)

二階三三・〇二平方米(九坪九九)

第二目録

大阪市天王寺区上汐町四丁目四二番地

家屋番号同町一一六番

木造瓦葺二階建居宅

床面積一階三九・〇四平方メートル(一一坪八一)

二階三〇・七四平方メートル(九坪三〇)

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